はじめに
前章の『不動産投資の落とし穴』では、気をつけないといけないポイントなのに、不動産営業マンは語らないサブリース契約や固定資産税について解説しました。
そして私からのメッセージとしては「不動産投資の収支計画は、営業マンの雑な資料に頼らず、自分でシミュレーションすべき」とお伝えしました。
今回は不動産投資にかかわる収入・支出を網羅的に解説し、その不動産でどれくらいの利益を出すことができるかシミュレーションしたいと思います。
また本章の最後に、私が作成したGoogleスプレッドシートの使い方も解説し、みなさまの不動産投資のシミュレーションにお役立ちできればと思っています。
この超解説は、自分の経験に基づきながら「ワンルーム不動産投資」について解説をし、不動産投資に踏み出せない方の後押しになればと思っています。
全章通じて「ワンルームマンション投資」にフォーカスするため、「一棟マンション」や「築古アパート」などは取り扱いません。
各章の構成は以下の通りです。

投資用一棟マンションを販売している不動産会社に入社し、スルガ銀行不正融資事件の発覚前から業界の闇を体験。健全な不動産業界にするため本サイトを立ち上げる。Amazon Kindleにて「資産形成の『甘いウソ』と本当のワンルームマンション投資」発売中!
年々、節税効果は薄くなる
第一章で解説したとおり、不動産投資には節税効果があります。
また第三章で解説したとおり、月々の収支がプラスでも固定資産税も合わせて計算すると、年間ではマイナスである可能性が非常に高いです。
そのためワンルームマンション投資においては、どれくらい節税できるかが非常に重要だということです。ですので、まずは節税に大きく関わる経費についての説明をしていきます。
ざっと不動産投資において経費として計上できるものを一覧化しました。
- 不動産取得時の初期費用
- ローン返済の利息分
- 減価償却費
- 管理費・修繕費
- 固定資産税
- 突発的な修繕費
第三章で解説したとおり、初年度は『不動産取得時の初期費用』が発生するため、多くの節税効果を見込むことができますが、2年目以降はそれ以外の項目で節税をおこなわなければなりません。
例えばローン返済の利息分です。ローンの返済方式には、返済額が一定な『元利均等返済』と、返済金額のうち元金部分が一定である『元金均等返済』の2つの方法があります。不動産投資のローンの殆どが、前者の『元利均等返済』になります。
注意点としては、経費として計上できるのはあくまで利息分のみであるため、元利均等返済の場合、年々返済時の利息部分が小さくなっていくので、返済すればするほど経費として計上できる金額が少なくなっていきます。
そして更に言えばこの利息分は、全額経費として計上することが可能ですが、損益通算の対象となるのは建物部分のみです。*特例等がありややこしいので、ここでは解説しません。
他にも減価償却費は、建物部分が47年、設備部分が15年しか経費として計上できないため、設備で15年間減価償却ができる新築マンションなどは、16年目以降節税額が少なくなるということです。
このように経費として計上できる金額が年々少なくなっていくため、不動産投資の営業マンが提示する『初年度のシミュレーションはアテにならない』ということを理解していただけると思います。
より節税金額を増やすためには
さて年々節税金額が減少していく中で、どのように毎年の節税額を担保していけばよいのでしょうか。
それは『不動産投資にかかる諸経費』をなるべく積み増すことです。
どういうことかというと、不動産投資のために費やしたお金は全て経費として計上するということです。例えば不動産投資の勉強のための書籍費用、セミナー参加費、物件視察のための交通費などです。
これらを『経費』として認められるためには、レシート・領収書の保管が重要になります。
不動産投資を行うと、確定申告を行う必要があります。確定申告の際には、レシート・領収書の提出義務はありませんが、領収書の保管義務はあります。白色申告の場合の保管期間は5年です。
仮に税務調査の対象となってしまった場合、領収書がない状態でいい加減な確定申告をしていると脱税とみなされてしまい、未納分の税金の支払い勧告を受けることとなります。そのため、不動産投資に関わる全ての領収書は最低5年間保管する必要があるのです。
節税対象である住民税・所得税は一定の税率で決定します。特に所得税は、課税所得が高ければ高いほど(年収が高ければ高いほど)税率が高くなるため、自身の年収を上げることも節税効果の恩恵をより多く受けられることにつながります。
節税金額の計算方法
それでは本題である、節税金額の計算方法について説明をしていきます。
年収600万円の場合、住民税+所得税は大体50万円になります。その上で、不動産投資をした場合の住民税・所得税を以下のように計算します。
①『年収』+『不動産収入』 -『経費』- 『控除』=『課税所得』
②『課税所得』×『税率』=『住民税・所得税』
年間の家賃収入が120万、不動産投資にかかる経費が200万の場合だと、年収600万円+家賃収入120万円-経費200万円=年収520万円になります。
520万円の年収の場合、支払う住民税・所得税は大体40万円となるので、節税金額は元々の金額である50万 - 40万で、10万円となるわけです。*厳密に計算をすると、厚生年金や健康保険料に変動が出るため、少しだけズレます。
同じように計算をすると、20万円節税したい場合は経費を270万円、30万円節税したい場合は経費を390万円計上する必要があります。
また上述の通り、年収額に応じて節税の恩恵を受ける額が変わってくるため、例えば毎年の不動産投資によって発生する赤字分(不動産収入-経費)が100万円の場合、年収別で受けられる節税効果は以下のようになります。
このように年収が高まれば高まるほど、節税効果の恩恵が受けられることと、課税所得に対する税率が変わるタイミングで、節税金額が伸びていることが分かります。
ただ注意点としては、年間100万円の赤字を出すことは非常に難しいです。あくまでここでは分かりやすくするために100万円と設定させていただきましたが、一般的にはせいぜい10万円~30万円くらいだと思います。ですので、この節税金額の1/10~1/3くらいを想定しているとよいでしょう。
出口戦略を考える
ここまで解説して「あれ、不動産投資って儲かるのか?」と思った方もいるでしょう。
結論から申し上げますと、短期的に利益確定をしたいのであれば売却想定で戦略立てないと儲からないと思います。
上述の節税シミュレーションで分かる通り、節税できる金額は良くて10万円程度です。もちろん赤字を多く出すことで節税金額を増やすことができますが、仮に税務調査が入った場合に説明責任が伴います。
仮に年間10万円程度節税ができても、年間の固定資産税や突発的な修繕リスクを加味するとワンルームマンションでインカムゲインを得ることは相当難しいと私は考えています。
更に言えば新築の場合、設備部分の減価償却は15年で終わるため、16年目以降の節税効果はより薄まってしまいます。中古ならもっと早くその時がきてしまいます。
これはあくまで個人的な考えですが、短期的な利益を求めるなら売却を想定する、長期的な利益を求めるなら頭金を多く入れてインカムゲインを増やすことが、ワンルームマンション投資の取るべき戦略だと思っています。(いろいろな考え方はあると思いますが)
最近では、ヤフーとソニー不動産が提供している『おうちダイレクト』や、みずほ銀行やパナソニックなどが技術提供している『HowMa』など、自身が保有している物件がどれくらいの金額で売れそうか、をリアルタイムで出せるサービスがあります。短期的な利益を得たいのであれば、これらも活用しながら売却想定で物件選びをしましょう。
以下の記事で、出口戦略に関して詳細に解説をしています。
「出口戦略」ってよく言うけどさ... 出口戦略って何すればいいの? 不動産投資を勉強した人が一度は聞いたことがある言葉の一つである『出口戦略』。 「出口戦略を考えましょう!」と、不動産投資コンサルタントの人が偉そうに言いますが、「[…]
シミュレーションの使い方
最後に冒頭で紹介した、私が作成したシミュレーションの使い方について解説をします。使用の際は「ファイル」→「コピーを作成」で使用ください。
まず皆さんに記入していただく欄は『物件1』『物件2』のシートです。一軒だけお持ちの方は、『物件2』への記入は不要です。
入力していただく部分は、薄い黄色でハイライトしているセルだけでOKです。全ての項目が入力できたら全て自動計算されます。
次に『節税経費』のシートの、同じく薄い黄色でハイライトしているセルに年間で計上する不動産投資に関する雑費を入力し、『年収計算』のシートの、同じく黄色いセルに自身のご年収を入れていただきます。
これで入力はすべて完了です。
シミュレーションは『収支』のシートで、毎年の不動産で発生する赤字、残債、売却時の想定価格、売却時の収支、節税を加味した収支、売却後の収支を確認することができます。
売却の想定価格は一定の係数を掛けているだけなので、必要に応じて自身で変更してみてください。デフォルトの数値だと8年目以降に売却をすれば、収支がプラスになる計算だと思います。
次章について
本章で、不動産投資は何も考えずに取り組むと儲からないということを分かっていただけたと思います。
特に節税部分に関しては、自分も税理士免許を持っているわけではないので、必要に応じてその道のプロの方に相談することをおすすめします。
本章でも少し触れましたが、中古と新築では償却期間の違いなどがあります。特に短期間の利益を求める場合は、この中古と新築の違いを理解した上で出口戦略を考えていく必要があります。
次章では中古と新築の違いにフォーカスして解説をしていく予定です。
はじめに 前章の『不動産投資のシミュレーション』では、その不動産から節税金額含めどれくらいの利益を上げるかを実際にシミュレーションしながら解説しました。 本章ではそのシミュレーションを踏まえて、中古・新築のそれぞれの特徴について解説[…]