はじめに
改めて、今回紹介する内容は私の考察も含まれるため、全てが事実ではないかもしれません。
しかし当時の不動産業界では、二重売買契約やフルオーバーローン、通帳の偽造が常習的に行われていたことは事実です。
スルガ銀行事件によって、このような不動産業界の悪習の全てが是正されたかどうかは、現在不動産業界に身を置いていない私には分かりません。
このスルガ銀行事件がもたらした結果は、多くの駆け出し投資家に『投資家としてのスタンス』を明示したといっても過言ではありません。
本記事を読み、いま一度ご自身の『投資家としてのスタンス』を見つめ直していただけると嬉しいです。
スルガ銀行事件とは
スルガ銀行事件の発端は、『かぼちゃの馬車』というブランド名のシェアハウスを販売していたスマートデイズ社の破綻でした。
スマートデイズ社は相場家賃よりも高い家賃保証をすることで、市場価格よりも高くシェアハウスを売り捌き、その販売利益で家賃保証の穴埋めをする、いわば自転車操業の状態でした。
そしてこの相場よりも高いシェアハウスに対し、当時融資をしていたスルガ銀行が新規の融資をしなくなったため、スマートデイズは販売利益が作れなくなり破綻に至ってしまったのです。
この破綻をきっかけに、「そもそもスルガ銀行の融資基準おかしくないか?」という疑問から不正の事実が分かり、更にはかぼちゃの馬車以外でも不正融資を行なっていたことが次々と明るみになっていったのです。
スルガ銀行の不正内容
前提:融資の基準
不正内容について話す前に、まずどのように融資ができるかできないのか、の融資基準について説明をします。
基本的に銀行は、収益還元法や積算価格などの情報を元に、その物件の収益性や適正価格を算出し、投資として成り立っていれば融資をするという判断をします。
当然、銀行としては『投資として成り立っていない = 返済が滞る・できなくなる』という可能性が高ければ融資をしたがりません。
またその不動産の収益性が低くても、融資を受ける人の返済能力(年収や保有資産)が高ければ、返済が滞る可能性が低くなると判断し、融資を行うケースもあります。
しかしスマートデイズ社の破綻により、家賃補助を受けられなくなった投資家たちは家賃収入がなくなり、スルガ銀行のローンの返済ができなくなってしまいました。
本来、銀行側は収益性が高くない物件であれば債務者の返済能力を重視して融資の決定を下すはずなのですが、なぜ債務者たちはローンの返済ができなくなってしまったのでしょうか。
『かぼちゃの馬車』の収益性があまりにも低かったというのも一つの理由ですが、一番の理由はスルガ銀行によって行われた不正融資です。
そして実は『スルガ銀行の不正融資』というと一見スルガ銀行が悪者のようにみえますが、実はスルガ銀行は不正を『黙認』していただけで、一番悪いのは不動産業者なのです。
スルガ銀行が『黙認』していた、不動産業者の不正は大きく3つです。
- 通帳の偽造
- フルオーバーローン
- 二重売買契約
通帳の偽造
上述の通り、融資を受けるためには債務者の返済能力が高いことを示さなければなりません。
今はどうか知りませんが、少なくとも当時のスルガ銀行は通帳の原本が不要で、コピーさえあればローンの本審査をすることができたのです。
自分が投資用不動産会社で働き始めた時、先輩が購入予定者に対し、通帳のスキャンデータをdpiまで指定していたことを覚えています。
なぜなら解像度が低いスキャンデータは偽造がバレる可能性が高いためです。さらにその先輩は送られてきたスキャンデータをPhotoshopで読み込み、預金残高に0を増やす作業をしていました。
つまり通帳の原本が不要なことをいいことに、通帳の偽造を行い、あたかも返済能力が高そうに見せていたのです。
通帳の原本を求めないスルガ銀行のツメの甘さはもちろんですが、不動産業者も不正に加担していたのです。
フルオーバーローン
フルローンとは、物件の購入代金を銀行から借り入れることを指します。この時、登記費用や印紙税等の購入時の諸費用はフルローンには含まれておらず、債務者の自己負担となります。
そしてフルオーバーローンとは、物件の購入代金だけでなく、購入時の諸費用もローンに含めることを指します。
銀行は投資の収益性に対して融資を行なっているので、購入後に発生する登記費用や、契約に関わる印紙税は銀行側にとって無関係なことであり、基本的にはフルオーバーローンを組むことはありません。
そもそも一棟マンション・アパートの不動産投資でフルローンを組むこと自体難しく、大手銀行だと物件価格の20%〜30%、地方銀行だとおおよそ10%程度の自己資金を入れなければ融資の審査は通りませんでした。
しかし購入時の諸費用や、物件価格の10%程度の自己資金は、返済能力が低い人たちにとって簡単に支払える金額ではありません。
そこで不動産業者は、本来の売買価格より15%〜20%高い金額を銀行側に提示します。
例えば1億円の投資用不動産を購入する時、真っ直ぐローンの審査をお願いすると、銀行側の融資額は9,000万円、自己資金は1,000万円という形になってしまうのですが、
「購入する物件は1億2,000万円です」と銀行側に販売価格を偽装した情報を送り、物件価格の90%である1億800万円の融資を銀行側から受ける、ということが横行していたのです。
当然、借入金額が高ければ高いほど月々の返済金額は高くなるため、収益性が高い物件でないと返済が難しくなってしまうのです。
二重売買契約
「え、フルオーバーローンの手口って、銀行にバレないの?」と思った方もいるのではないでしょうか。
その手口をバレないようにするための方法が二重売買契約です。
当然、この二重売買契約は有印私文書偽造罪にあたる違法行為です。
このように通帳の偽造や、フルオーバーローンを組むにあたり二重売買契約を結ぶなどの違法行為を重ね、スルガ銀行は返済能力の低い人たちに多額のローンを背負わせてきたのです。
悪いのはスルガ銀行?
このように振り返ってみると通帳の偽造も、二重売買契約を使ったフルオーバーローンも、スルガ銀行が主体となっておこなったことではなく、いずれも不動産業者がおこなったことです。
スマートデイズ社は破綻してしまったので責めづらいですが、なぜその後明るみになったスマートデイズ社以外の不動産会社は責められなかったのでしょうか?
またスルガ銀行不正融資事件が起こるまで、このような違法的な不動産取引が横行していました。
更にはスルガ銀行のように通帳の原本を必要としない地方銀行はいくつかあり、そういった地方銀行を投資用不動産の会社は好んで活用していました。
私がまだ見習いだった頃、商談の付き添いでスルガ銀行に訪れたことがあります。
その時に、購入に進みそうな物件の仮査定をお願いしたかったので、いくつかの物件を持ってスルガ銀行の人に「この物件どうですかね?」と話したことがあります。
私はその時言われたことを今でも忘れません。
この「絵を描く」というキーワードこそが、スルガ銀行が不正を黙認していた事実の裏付けだといえるでしょう。
悪いのは騙された人?それとも悪徳業者?
最後にこのスルガ銀行事件を通して学ぶべき、投資家のスタンスについて話をします。
インターネット上では「借金帳消しは甘やかしすぎ」という意見もあります。
私個人の意見としては、確かに借金帳消しは甘やかしすぎだとも思いますが、騙す側が地方銀行といえど大手金融会社だったため、帳消しという解決策は妥当だったと思います。
そしてそれは、この不正が『かぼちゃの馬車』という特定の事案で明るみになったからこそ成し得たものだとも思います。
巷でよくある情報商材の詐欺まがいなことも、基本的には騙す側も、騙される側も悪いと思いますし、相互の和解に対して口出しするつもりもありません。
ただ言えることは不動産取引はとても複雑で、不透明性が高い投資商材であるにも関わらず、知識なしに挑む人が多いということです。
「この株、買っておけば絶対儲かる」
そう聞いて素直に買う人はいるでしょうか?おそらく殆どの人は買おうとは思わないでしょう。なぜなら絶対の保証がないからです。
世界的にそうなのか分かりませんが、少なくとも日本人は『保証』という言葉に弱く、『元本保証』である定期預金を好む傾向にあると感じています。
今回のケースだと不動産投資で一番のリスクである空室に対して、家賃保証という形で不動産投資未経験者を安心させたのだと思います。
『不動産投資の落とし穴』でも解説していますが、家賃保証は永続的なものではありません。少し不動産投資について学べば誰もが気づくことだと思います。
はじめに これまで、不動産投資のメリット・リスクについて説明をしてきました。 第二章では不動産の安定収入をおびやかす空室・家賃下落・金利についてお話をしてきました。 第三章では、『実は考慮しないといけないのに、あまり語られてい[…]
スルガ銀行不正融資事件を招いたのは、スルガ銀行や悪徳不動産業者の悪習であることは間違いありませんが、更にもう一つ理由があるとすれば不動産投資に挑戦をしようと思った人の勉強不足です。
100%成功する投資はなく、投資家たちは日々リスクと戦いながら収益を上げています。そのリスクを最小限にするためには、その投資商材を深く理解するほかありません。
このスルガ銀行不正融資事件を通じて皆さんに知っていただきたいことは、どのような投資商材においても詐欺まがいなことは横行しており、いつ自分が騙される立場になるのか分からないということです。
騙されないためには、リスクを最小限にすることと同じく、その投資商材に関する理解を深めるしかないのです。