不動産投資の嘘|本要約とレビュー

総評

『不動産投資業界は「嘘」で塗り固められている。』という、印象強いキャッチフレーズを打ち出している本書は、

『不動産投資は○○すれば儲かる』のような断定的なフレーズは一切使わず、各人の投資のゴールに合わせた物件・銀行・立地を選ぶことを強調しています。

『不動産業者にとっては常識』な情報ばかりですが、『初心者投資家にとっては浸透していない情報』を事細かに説明しており、これほど業界のリアリティに踏み込んだものはないと思います。

筆者はCPM(米国不動産経営管理士)という、アメリカで80年以上の歴史を持つ日本では400人前後しか保有者がいない難関資格を取得しており、不動産業者に肩入れすることなくフラットな立場で不動産業界の嘘を解説してくれています。

「○○すれば必ず儲かる!」のような夢物語は描かれてなく(むしろそれは嘘だと否定しています)、不動産投資をはじめてみたいという人には少し難易度が高い内容であるためオススメはできませんが、物件を探しはじめた人、最初の1軒の契約間近の人に一度踏み止まって読んで欲しい一冊です。

重要なポイントまとめ

投資に『絶対』は存在しない

人によって投資の目的が異なるため、「○○なら必ず儲かる」「○○は損する」は存在しない。

正しくはリスクとリターンのトレードオフで、月々の安定したキャッシュフローを得たいなら地方のRC一棟が成功確率が高い、資産分散や売却によるキャピタルゲインを狙うなら都内の区分が成功確率が高いだけであって、自分の投資の目的に合わせて手段を整理し、適切なポートフォリオを考えていくべきだということです。

また不動産投資だけに限らず、投資は『売却』をして初めて利益が確定します。

そのため月々のキャッシュフローがマイナスなのは悪だと断定することは間違っていて、本書ではこのような例ではありませんでしたが、月々のキャッシュフローはマイナスだけど、5年後売却をして結果黒字であれば何ら問題はないのです。

※但し本書ではキャッシュフローが赤字で、且つ売却益も出にくい新築区分マンションは成功確率が低いと解説されています。

表面利回りだけで物件を判断しない

本書ではCPM資格保有者が頻繁に用いる投資の指標について詳しく解説がされています。

例えば多くの不動産業者が用いる表面利回りという指標は投資において参考にならない数字で、表面利回りが30%超えでも管理費や固定資産税、エレベーターや修繕費などのランニングコストが多くかかってしまうと、FCR(Free and Clear Return: 真実の利回り、実質利回り)がマイナスになってしまうということは起こり得るのです。

他にもFCRだけではなく、BE%(損益分岐点)、K%(ローン定数)などを用いて、その投資の収益性を様々な角度から判断することを推奨しています。

名指しはしていませんでしたが、楽待や健美家に表示されている利回りは全て表面利回りです。

確かに表面利回りは最初のフィルタリングとしては有用ですが、物件の投資対効果を測る指標としては脆弱だということが指摘されています。

嘘を見抜くためには

本書では『新築区分マンションは失敗率が非常に高い』と明言していますが、なぜ失敗率が高い物件がバンバン売れていくのか。

それは巧みな営業マンの様々な嘘に騙される人が多いからです。

例えば節税、将来の年金代わり、都心・駅近なら安心などなど、優秀な営業マンは人の不安に漬け込み、様々な方法で口説いていきます。

しかし実態は投資や税金に関する知識レベルは低く、特に本書では税金のことは税理士に任せるべきとしています。

なぜなら税金の法律はほとんど毎年のように変わっている中で、それを税務の素人が正確に把握することは現実的ではないためです。

他にも『○○大家さん』という実態のない有名投資家や、『サラリーマンを辞めてリタイアしました』と話す投資家などは、ブランディングの一環でそう豪語している可能性が高く、

夢のような私生活をセミナーやSNSで披露することで集客効率を高め、不動産業者に紹介をして紹介料を稼いでる例は少なくありません。

このように不動産業者は知識のない人たちに不動産を買わせようと、あの手この手でアプローチをしてきます。

それに対抗するためには、投資に関する知識を高めるのことと、不動産に関することはCPM保有者、税務に関することは税理士など、

一介の営業マンではなく、その道のプロに相談することが重要だということです。

最後に

この記事では詳細に説明しきれませんでしたが、本書の中では銀行の選び方、土地の見極め方、新築か中古か、国内不動産か海外不動産か等々1つ1つ細かく解説がされています。

冒頭に記載した通り、不動産投資をはじめたいという人には難易度が高い内容ですが、既に不動産投資を検討している・実施している人が一歩立ち止まるためには非常に参考になる一冊だと思います。